特許法改正後のインド事情

特許制度改革後のインドの政策

特許法改正後の問題点

インドでは、2005年に医薬品の特許保護が原則的に認められるようになり、インドの医薬品市場は大きく変化しました。第一の変化は、特許薬の登場でした。2010年8月には、13品目前後の新薬が物質特許の対象となりました。法改正前は製法特許しか認められなかったため、新薬がインドに導入されると、瞬く間に現地企業の合法なコピー製品が流通していました。法改正後は、新薬のコピー製品を製造販売する現地メーカーは、物質特許などの知的財産権を侵害することとなります。よって、特許権者である先進国の新薬メーカーが、コピー製品を市場から排除したうえで高価格で設定するできるようになります。しかしながら、後述しますが実際には特許権の行使には大きな障壁が立ちはだかっているのです。とはいえ、インドの医薬品市場に特許保護の概念が浸透してきたことは、大きな変化だといえます。
二つ目の変化は、多国籍製薬企業の存在感が急テンポで早まっていることです。インド最大の製薬メーカーの「ランバクシ」ーを日本の「第一三共」が買収したことは日本でも大きく報じられましたが、これ以外にも外資系による企業買収や新規参入が増えているのが現状です。なかでもアメリカの「アボット」が地元のの有力メーカー、「ピラマル」の国内事業を買収したことは、地元メディアを震撼させました。アボットが買収後に、国内売上高ベースでインド国内で最大になったことで、トップ3社の二つを外資系が占めるようになったのです。多国籍製薬企業の投資に拍車を掛けているのは、世界第二の人口を抱えるインドの巨大市場で、新たに特許保護が導入されたという事実も根拠の一つと考えられます。それに対して、インド国内では製薬企業が多国籍製薬企業に買い占められることに対する憂慮は強く、出資比率規制の導入議論も活発になっています。 今日までインドの医薬品産業では、個々の製品が市場における複数のメーカー間の市場競争によって適正価格の高騰が抑制されてきました。そこへ特許保護が本格的に導入されたので、競争圧力が無くなり、適正価格が高騰することが心配されています。国民の大多数が健康保険を持たないインドでは、価格の高騰は死活問題なのです。そこで、政府は以前から存在する「価格規制制度」を強化し、特許薬を含む多くの医薬品を新たに規制下に置こうとしていると言う訳です。

世界を震撼させたインド最高裁判決

多国籍企業ノバルティスとの法争

インド最高裁判所は、スイスの製薬会社ノバルティスが申請していた抗がん剤「イマチニブ(商品名グリベック)」の特許をめぐる争いで判決を下しました。
特許権が認められるならば、インドのジェネリック医薬品産業が大打撃を受け、薬を買えなくなる人が蔓延すると、多くのNGO団体が批判しました。  ノバルティスに対するNGO団体の反対運動は2007年頃から盛んになっていました。NGO団体は、ノバルティスが既存薬の化学構造をほんの少し変えて特許の有効期限を延長する「エバーグリーニング」を行っていると非難。  反対運動を行っているのは、ベルン・デクラレーション(Bern Declaration)、オックスファム(Oxfam)、国境なき医師団(MSF)など国際的なNGO団体でした。国境なき医師団(MSF)は、「万が一にもノバルティスがこの紛争で勝訴すれば、インドでも先進国並みに特許が認定されることになり、既存薬の化学構造を新しくしただけの医薬品も特許となってしまう。インドは発展途上国に安価で高品質な薬を供給できなくなると懸念される」と訴えた。  それに対してノバルティスは、インドは特許制度においてほかの製薬大国と同じ路線に立つべきだと主張。また、我々が勝訴した場合でも、ジェネリック医薬品企業は特許が切れた医薬品を今後も今まで同様に製造販売できると主張。

エバーグリーニングについての両者の相違

裁判で特許が争われたのは、ノバルティスが1993年に開発した分子化合物「イマチニブ」という成分。これをさらに改良改善したものが、医薬品ベストセラーの「グリベック(Glivec)」で、現在世界40カ国で特許を得ている主成分です。  ほとんどの先進国では特許制度が歴史的に長く整備されていますが、インドが医薬品の特許制度を取り入れたのは2005年と比較的に最近のことです。インドの特許制度でなんといっても特別な点は、既存薬の化学構造を変えただけの医薬品には特許を認めないとする条項があることです。先進国で特許申請される医薬品のほとんどがこの「新しく改良された」医薬品なのですが、ノバルティスは、グリベックはそうした類ではないと強調。  ノバルティスは同社ホームページで次のように主張しました。「研究開発には長い年月を要しており、単に漸進的に改良された医薬品とはいえない。『エバーグリーニング』と捉えることは全く無理なことだ」  ところが、ジェネリック医薬品製造会社やインドがん患者支援協会から強い要請がかかるインド特許局は2006年1月、グリベックの特許申請を却下。グリベックは既存成分のイマチニブと同じ構造で、「改善された効果」のある正真正銘のイノベーションではないことを判決理由としました。  これがきっかけとなり、法廷紛争へと発展。すべての決着は、インド最高裁判所の判決を待つこととなります。

インドの特許制度事情

インドは2005年1月から、世界貿易機関(WTO)が定める「知的財産に関する規定」を採用しました。しかし、インドの国内法は1995年以前に特許を取得した医薬品や、既存薬の化学構造を新しくしただけの医薬品には特許を認めていません。 ノバルティスは、「グリベック」の有効成分であるイマチニブのベータ型結晶の特許登録を申請したが、インド当局はこれを既存化合物が改良されたものにすぎないとし、特許申請を却下しました。他方この、「グリベック」は40カ国で特許が認められている成分で、インドでは毎年2万5000人が慢性骨髄性白血病にかかっているといわれています。

ノバルティスはグリベックをめぐる特許訴訟を次のように説明しています。「この訴訟はインドでの特許法適用を明瞭にするもので、インド経済医療の未来にとって特別な意味を持つ。インドが今回の様に国際法の下で特許権を認めにくくしようとしているのは必然である。インドはジェネリック医薬品の輸出大国であるため、特許権の拡大は国内のジェネリック医薬品産業の衰退を意味する。その点から、インドは医薬品に特許をただ単に承認したくはないのだ」。  一方NGO団体が憂慮するのは、ノバルティス側が勝訴した場合、特許権保護が適用される医薬品がインドで活発化し、薬が入手できない貧しい患者が世界中で膨れ上がることだ。「簡単に説明すると、我々には2種類以上の薬から成る混合薬や子ども用医薬品が必要不可欠であるが、法律が変わってしまうとこうした医薬品にも特許が適用できるようになってしまう」 と。
ノバルティス側は「それは間違っているうえ、誤解を招く」と反論。抗HIV薬などの医薬品の販売については今回の訴訟で妨げられることはないと口にし、「2005年以前にインドで販売開始され、今も入手可能なジェネリック医薬品は訴訟に左右されることなくこの後も販売することができる」と主張。  ノバルティスとNGOとで立場は全然異なるが、双方ともに人命救助を第一理念にしている点では一致している。

 

 ジェネリック市場とビジネス環境  

NGOは「ノバルティスは発展途上国の医薬品需要を攻撃している」と批判しているが、ノバルティスは、インドでの医薬品販売の実態はNGOが主張するようなものではないと否定。その理由として、インドのジェネリック医薬品製薬会社はどこよりもまず先進国で最も多く医薬品を積極的に販売していると主張。  それに対し国境なき医師団は「馬鹿げている」と反論。「ノバルティスがこのような主張をするのは極めて心外。国境なき医師団や国連エイズ合同計画(UN Aids)などの団体はARV(抗レトロウイルス薬)の9割以上をインドに依存している。抗マラリア剤やワクチンの購入も年々拡大している」  ノバルティス側の意見を問い合わせたしたところ、ノバルティスは同社HPに書かれた陳述意見を繰り返しました。「インドのジェネリック医薬品製会社は製品の大半を利益が見込まれる先進国の市場に輸出販売している。利益は奪い取って、弱者の正論を振りかざすのは容認できない。また薬が買える購買力、経済力があれば医療体制が改善改良されるというわけではない。薬の入手経路には、政治や経済が障壁となっている」と。

 

・ジェネリック 日本ジェネリック製薬協会

・ジェネリック 第一三共

・ジェネリック 沢井製薬